クリムトの‘ベートーベン・フリーズ 幸福への憧れ’(1902年)
クラシック音楽が大好きな人なら、ウィーンで一番の楽しみというとオペラ座へ出かけたりウィーンフィルの名演奏を聴くことかもしれない。そして、今でも恒例のニューイヤーコンサートを聴くツアーの申し込みは多いのだろう。
これに対し、音楽よりは美術のほうに関心がある人たちにとってもウィーンは優しく微笑んでくれる。ウィーン美術史へ足を運べばブリューゲルの‘バベルの塔’や農民画が堪能できるし、ベルヴェデーレ宮などいくつかの美術館をまわればクリムトやシーレの作品にたくさん会える。
ウィーンで美術の新しい流れをつくり出そうとした分離派グループの拠点となったのが分離派館(1898年)。クリムト狂いにとってここは絶対外せないところ。目を惹くのがドームの模様、金メッキをほどこした3000枚の月桂樹で装飾されている。建てられたときは悪意をこめて‘黄色い玉ねぎ’とか‘キャベツの頭’と呼ばれたが、今ではウイーンの人気スポットのひとつになっている。
地下にお目当てのクリムトの巨大壁画、‘ベートーベンフリーズ’がコの字の形で飾られている。クリムトはベートーベンの‘9番’の最終楽章‘合唱つき’をもとに自由な発想で筆をふるい、まず‘幸福への憧れ’、次に‘敵対する力’、最後に‘歓喜’を描きあげた。
‘幸福への憧れ’は弱者を救うために立ち上がった黄金の鎧に身をつつんだ戦士がすごくカッコいい。だが、戦士を食ってしまうほどの存在感を見せつけるのが‘敵対する力’に登場する怪物風のゴリラ、これはギリシャ神話の怪物テュフォン、すぐ頭をよぎったのが小さいころ動物園でみたマントヒヒの顔。
このゴリラの右隣にいるのが蛇の髪をもつ魔女ゴルゴン三姉妹。官能的な目で誘う女と手前のでぶっちょの女の組み合わせにゾクッとする。最後の‘歓喜’では天使たちの‘喜びの歌’の合唱が鳴り響く、戦士は鎧をぬぎすてて裸になり女性と抱き合っている。この大壁画をみれたのは生涯の喜び、クリムトに乾杯!