とても気になる絵の存在がきっかけとなって、画家が好きになることがある。だが、その絵とじっさいにお目にかかれるかというと簡単ではなく時間がかかる。ベルギー象徴派のクノップフ(1858~1921)が描いた‘愛撫’を見た瞬間、クノップフへの関心が大きくなった。そして、ようやくベルギー王立美を訪問する機会がめぐってきた。
チータと女性のハイブリッドスフィンクスが一見女性を思わせる若者と頬を寄せ合っている謎めいた作品、心がザワザワしてくる感じはクリムトが描く官能的な女性をみるときと似ている。スフィンクスがエジプトにあるようなライオンだったら、どんな印象になるだろうか、女性の顔を美しくみせるために黒い点々のあるチータにしたのかもしれない。
クノップフにとって理想の女性は6歳下の妹マルグリットだった。そのため、描かれるモデルの容貌はマルグリットのイメージがベースになっている。肖像画は結婚前のマルグリットをクノップフが29歳のとき描いたもので、生涯手放さなかった。
クノップフに強い影響を与えたのがイギリスのラファエロ前派の画家、バーン=ジョーンズ(1833~1898)、ここには‘プシケの婚礼行列’が展示されていた。人物の配置はバーン=ジョーンズお得意の女性のシールを横一列にぺたぺた張り付けたような構成。真ん中がこれから恐ろしい怪物のところへ嫁ぐことになるプシケ。
ヌンク(1867~1935)の鈍く光る青を基調にした‘孔雀’は森のなかに出現した幻想世界に紛れ込んだような気分にさせる作品。まさに象徴派全開。この美術館にはデルヴィル(1867~1953)の鑑賞欲をおおいに刺激する‘悪魔の宝物’があるのだが、どういうわけか2回とも姿を見せてくれなかった。残念な思いをずっと引きずっている。