バレエの舞台が好きだったドガ(1834~1917)には踊り子をピンポイントで描いたものと本番の前の稽古にのぞんでいる踊り子たちをいろんな姿でみせるものがある。前者の代表作がオルセーにある‘エトワール’とコートールドが所蔵する‘舞台の二人の踊り子’。
‘エトワール’が手を大きくのばした踊り子を上のほうから眺めるような格好でとらえたのに対し、‘舞台の二人の踊り子’は足のつま先立ちとㇵの字をつくる足をみせるバレエらしい姿。本物のバレエの舞台は数回したみたことがないが、目に焼きつくのはなんといってもつま先立ち。だから、好みはコートールドのほう。
ロートレック(1864~1901)の‘ボックス席の夕食’は真っ赤な口紅を塗ったモデルの天真爛漫な微笑みが強く心に残る作品。ロートレックはモンマルトルで働く娼婦たちに可愛がられたからモデルを手配するのに苦労しなかった。この女も‘おちびちゃん、いいわよ、あの旦那も一緒に描くのかい、でもあの人の面が割れるように描いちゃダメよ。今後の商売に影響するからね’とかなんとか軽口をたたきながらポーズをとったにちがいない。
点描画家のスーラを1点でも多くみたいと願っているので、どの美術館にどの絵があるというのはおおよそ頭に入っている。ここは画集に必ず登場する‘化粧する若い女’と‘クールブヴォアの朝’を揃えている。日本には同じ展覧会ではないが、どちらもやって来た。
‘化粧する若い女’でおもしろいのは右手にもっているパフのあたりを中心にして後ろの部屋の壁に渦巻が白く描かれていること。この曲線に呼応するように、女性のスカートにも巻貝のような丸い輪ができている。そのため象徴主義の作品にみられる神秘的な雰囲気が感じられる。
一方、風景画のほうは音が消えたような静謐な世界。人物、木々、工場の煙突、ヨットのマストはみんな真っすぐな垂直線で整然と並んでいる。確かに、何も考えずに川岸に立ち遠くをみると目の前の光景がこういうふうに見えることがある。水平線や垂直線でつくられた構図は絵画の表現に深い意味をもたせるのに大きな役割をはたしていることがこういう絵をみるとよくわかる。