ルーベンスの‘エレーヌ・フールマンと息子フランス’(1635年)
ヴァン・ダイクの‘エジプトへの逃避途上の休息’(1630年)
海外にある大きな美術館へ行くと必ずバロックの大巨匠ルーベンス(1577~1640)の作品と出会う。なかでも圧倒されるのが特大サイズの絵、そこには神話や宗教画を題材にしてキリストや聖母、女神たちが緊張感に満ちた大迫力で力強くあるいは荘厳な調子で描かれている。
こんなバロック様式全開のルーベンスをいっぱいみたぞ!と、これまで思った美術館はアルテ・ピナコテーク、ルーヴル、プラド、そしてロンドンのナショナルギャラリー。アルテ・ピナコテークのイメージはデューラーとルーベンスによってできあがっている。
ルーベンスの絵は全部で10点くらいはあったような気がするが、最も記憶に残っているのは‘レウキッポスの娘たちの略奪’、この絵には巧妙な仕掛けが施されている。二人の裸の女、この女たちを連れ去ろうとする二人の男、男の後ろで跳びはねる二頭の馬、ルーベンスは人物と馬を中央の女を中心とした円のなかにすっぽりおさめて男たちによる恋の暴走を見る者に強く印象づけている。
この話は双子座の物語、レウキッポスは双子の叔父さんの名前、よくあることだが男たちはその娘に恋をしてしまった。この従妹たちには婚約者がいたが好きになったら一直線、女たちを連れ去り妻にした。これに怒った婚約者は兄を殺してしまう。兄に失い嘆き悲しんでいる弟をみるにみかねてゼウスは二人を天に輝く星にし永遠に一緒にいられるようにしてやった。これが双子座。
‘妻といる自画像’は結婚記念画。おもしろいのはほかの絵にくらべてリラックポーズで描かれていること。おしゃれをした若い貴族のようなルーベンスとイザベラはなんと手に手をとって幸せムードいっぱい。こんなくだけた肖像画はみたことがない。エレーヌ・フールマンは二度目の妻、相変わらず若くピチピチしているが、膝にだいた男の子と一緒にこちらをみる姿がじつにいい。
肖像画の名手として高く評価されたヴァン・ダイク(1599~1641)のすばらしい宗教画はアルテにある。それはマリアの描写が心を打つ‘エジプトへの逃避途上の休息’。これは忘れられない一枚。