カラヴァッジョは‘イサクの犠牲’という暴力性が過剰にでた作品が描いている。父アブラハムに殺されかかって恐怖のおびえるイサクの表情をみて、ひょっとしてカラヴァッジョはウイーン美術史美にあるティツィアーノ(1490~1576)の‘刺客’をみたのではないかと思った。
ドレスデン美にも‘刺客’と同じようなライブ感覚の人物描写がみられ作品がある、画面いっぱいに描かれたのはキリスト物語の‘貢の銭’の場面。狡猾な祭司に対しキリストはきりっと‘皇帝のものは皇帝に、神のものは神に返しなさい’と言う。
ティントレット(1519~1594)の大作‘サタンと戦う大天使ミカエル’がぐっとくるのは一にも二にもその動きのある大胆な構図。サタンと大天使ミカエルを斜めに対置させ戦いのシーンをドラマチックにみせる。人間や神々を宇宙飛行士のように天空に浮遊させるのはティントレットの専売特許。誰にもまねできない。
カラッチ(1560~1609)がヴェネツィアへ行ったときに描いた‘聖母と聖人たち’もティントレットと同じくらい見ごたえのある大きな絵。カラッチはなかなかみる機会がない画家だが、その才能に開眼させてくれたのはこの絵だったかもしれない。
2年前、西洋美で回顧展が開かれたグエルチーノ(1591~1666)、出品作のなかに‘聖フランチェスカの法悦’があった。この絵はルーヴルにある絵の縮小ヴァージョンだが、グエルチーノはもう2点描いている。そのひとつがドレスデンにある。当時、グエルチーノの名前は知っていたが強い思い入れはなく、奏楽の天使と聖人の目をひく構図がなんとなく記憶に残っている程度だった。でも、今はカラヴァッジョの半分ぐらいの接近度にはなっている。