東山魁夷(1908~1999)の作品は隙のない風景画というイメージが強い。日曜画家が得意とする風景画と較べると静けさの深さはちがう。でも、こういう作品ばかりではない。緊張しないで絵に入れて心にジーンとしみるものもある。
そのなかでいつみてもいいなと思うのが‘年暮る’、この絵は与謝蕪村の国宝‘夜色楼台図’の現代版、いずれ重文に措定されるだろう。大みそかに雪が降るという設定がなんともいい。人々は雪の情景につつまれてもうすぐやって来る新年を静かに待っている。これほど日本人の琴線にふれる絵はそうはない。
横山操(1920~1973)の‘越後十景 親不知夜雨’をみるとNHKの昔の旅番組‘新日本紀行’が思い出され、テーマ音楽が聴こえてくるよう。広島に住んでいたときよく鳥取へ出張し日本海沿いをクルマで走った。だから、この絵に描かれているような厳しい日本海を肌で実感している。
横山操とうまがあった加山又造(1927~2004)はこの頃、琳派風の作品にのめりこんでいた。‘天の川’もすばらしい一枚。このところ宇宙の話に夢中なので天の川は銀河系というほうがしっくりいくようになった。切金で表現された天の川はまさに天空の神秘。この絵に魅了され続けているのはもやっと描かれた天の川と装飾的に図案化された地上に咲く桔梗や女郎花が柔らかくとけあっているところ。毎日ながめていれば軽く生きられる。
吉田善彦(1912~2001)の作品をみたのは数回しかない。昨年世田谷美であった‘速水御舟展’で久しぶりに4,5点みた。‘大和四題’は代表作で‘昭和の日本画100選’(1989年)にも選ばれている。霞がかかったような表現は奈良の風景にはぴったりかもしれない。