絵画でもやきものなどの工芸でも心にながくとめていたものとの出会いが実現するとなにか大仕事をしたような気持になる。手元にはもう何年も前から追っかけリストがあり、そこに載せている作品と遭遇するたびにアートライフの階段はひとつ高くなる。
ときどき2,3段上がったようなことがおきる。前田青邨(1885~1977)の‘出を待つ’はそんなことが強く感じられる作品。能の舞台をまだ見たこともないのに、能がそれほど遠い存在ではないのはこの般若の面をかぶった能役者の絵のおかげかもしれない。この絵は個人がもっているものだから、滅多にでてこない。でも、一度お目にかかった。いつだったかは忘れたが、とにかく念願が叶ったのである。息を呑んでみていた。
いい肖像画を描けるようになったら画家も一流の仲間入りできるが、そこまでたどり着けるのはごく限られたものだけ。人体を描くのはそれほど難しい。島根県の浜田出身の橋本明治(1904~1991)は著名人をモデルにした肖像画をいくつも描いている。そのなかで最もいいできなのがこの‘六世歌右衛門’、ご存じ歌舞伎の名女形の中村歌右衛門、女形というと独特の雰囲気があるが、この斜めから姿がとても印象的。
橋本は男性では経営の神様、松下幸之助、そして髭の殿下、三笠宮寛仁親王殿下がビリヤードを楽しんでいるところを描いている。また、相撲が好きだったのか取り組みの前支度部屋で髪を整えている大関貴乃花の姿を描いたものもある。相撲といえば、稀勢の里は今日も勝って7連勝、ひょっとすると優勝がある?気になるのは勝つぞ!という気迫が前面にでてこないこと、取りこぼさないようにとっているのはいいが、これでは肝心の大一番が心配、果たして?
過去に‘人間国宝展’を2回体験し、創作人形の名品をみることができた。そのなかでとくに魅了されたのが平田郷陽(1903~1981)、‘朝霜’はこどもに顔を寄せる母親のやさしさが真に心を打つ。